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2025-05-27号

最近気になったニュース
こんにちは!テクノロジーや社会の動向、そして人間の心理に関するニュースは常に興味深いものですね。今回は、最近見かけたいくつかの記事から、AIの不思議な振る舞い、人間が失敗から学ぶことの限界、そして人間関係における「信頼」の進化、さらには文化や思想に対する興味深い規制の動きまで、様々なテーマを扱った記事をまとめてご紹介したいと思います。
LLMの「幻覚」メカニズムに迫る研究
まずご紹介するのは、大規模言語モデル(LLM)が時折見せる「幻覚(Hallucination)」、つまり事実に基づかない情報を生成する現象に関する研究です。東京大学などの研究チームが発表したこの研究では、LLMが「幻覚」を起こしている最中の脳活動パターンを、人間の脳活動と比較しました。
研究チームは、LLM(GoogleのALBERT、OpenAIのGPT-2、MetaのLlama-3.1、東京大学のLLM-jp-3を使用) に、意味のない言葉や矛盾した表現を含む「ウエニッペル」のような文字列を提示し、その際の脳活動を計測しました。一方、人間の被験者に対しても同様の文字列を提示し、fMRIを使って脳活動を計測しました。脳活動の比較には、「エナジェティックランドスケープ」という手法が用いられました。
その結果、驚くべきことに、すべてのLLMにおいて、「ウエニッペル」のような意味のない言葉や矛盾した表現を提示された際の脳活動パターンが、人間の被験者が同様の文字列を提示された際の脳活動パターンに近い傾向が見られたとのことです。これは、LLMが「幻覚」的な出力をする際に、人間の脳が不確実な情報や矛盾した情報を処理する際のパターンと似た内部状態になっている可能性を示唆しています。
研究チームは、この結果を受けて、LLMが「幻覚」的な出力をするのは、「ウエニッペル」のような矛盾した情報を扱う際に、人間の脳の前頭前野に表出するような脳活動に似た状態にあるためではないかと推測しています。また、LLMが矛盾した情報や不確実な情報をうまく処理できないメカニズムが、「幻覚」として表出している可能性があると考察しています。LLMの不正確な情報生成、いわゆる「もっともらしい嘘」や根拠のない発言 が、脳の不確実な状態に起因しているという見解は、LLMの信頼性向上に向けて重要な示唆を与えてくれます。
失敗は成功のもと?ただし、ある閾値を超えると…
次に、人間自身の学習メカニズムに関する興味深い研究をご紹介します。「失敗から学ぶ」ことはよく言われますが、あまりに失敗を繰り返すと、人は学ぶのをやめてしまう可能性があるという研究結果です。米カーネギーメロン大学(CMU)とクラーク大学(Clark University)の研究チームが行った調査では、個人の失敗経験と学習効果の関係性を調べています。
この研究では、米カリフォルニア州の心臓外科医307名を対象に、2003年から2018年にかけて行われた冠動脈バイパス術(CABG)のデータが分析されました。外科医の失敗は、手術に起因する患者の死亡と定義され、学習効果は失敗後のパフォーマンス改善で評価されました。
分析の結果、外科医のパフォーマンスは最初のうちは失敗の蓄積とともに向上しましたが、その後も失敗を繰り返していると、ある閾値を境に低下し始めるという一貫した傾向が見つかりました。つまり、一定以上の失敗が蓄積すると、学習効果が得られなくなることが示されたのです。この「学習効果が得られなくなる閾値」は、外科医の「学習能力の高さ」によって左右されることも示唆されています。高度な医学的訓練や専門知識を持つ外科医は、そうでない外科医に比べて閾値が高く、失敗から学習効果が得られる期間が長かったとのことです。これは、高い学習能力を持つ外科医は、失敗から学ぼうとする意欲が高く、失敗から生じる負の感情や諦めに対する耐性が強いためではないかと研究者は推測しています。
この結果は、「すべての失敗体験が学習を促進するわけではなく、繰り返される失敗は有益な作用の後に有害な影響を与え始める可能性がある」ことを示しています。エジソンの「私は失敗したことがない。ただ1万通りのうまくいかなかった方法を見つけただけだ」という言葉 は、失敗から学ぶことの重要性を説いていますが、この研究は、失敗しすぎると学ぶのをやめてしまう「閾値」があることを示唆しており、ある意味皮肉とも言えます。コメント欄には、自身の経験と重ね合わせ「挑戦する気がなくなる」「心が折れる」 という声や、「学習性無力感」との関連 を指摘する意見も見られました。もちろん、この調査は外科医という限定的な対象での結果であり、日常生活での失敗にそのまま当てはまるかは分かりませんが、示唆に富む研究結果と言えるでしょう。
「信頼」はどのように生まれるのか?ゲーム理論で考える
人間関係や社会において非常に重要な要素である「信頼」について、ゲーム理論を用いてシミュレーションできる興味深いウェブサイトを紹介する記事がありました。GIGAZINEで紹介されている「The Evolution of Trust」というサイトです。
このサイトでは、「信頼のゲーム」という、お互いがコインを入れるか入れないかを選択するシンプルなゲームを行います。これは、お互いに協力すれば両者にとってより良い結果になるにも関わらず、自分が非協力的な行動を取ることで一時的に利益を得られる可能性があるという「囚人のジレンマ」の一種です。
ゲームでは、様々な戦略を持つNPC(ノンプレイヤーキャラクター)と対戦したり、複数のNPC同士を戦わせたりして、どの戦略が最終的に最も多くのコインを獲得できるか(最も成功するか)をシミュレートできます。登場するNPCには、常に協力するタイプ、常にズルをするタイプ、相手の行動を模倣する「コピーキャット」、一度ズルされたらズルし続ける「復讐者」などがいます。
シミュレーションの結果、繰り返しプレイされる状況下では、「コピーキャット」戦略が最も成功しやすいことが示されます。コピーキャットは、最初は協力的ですが、相手がズルをしたら次のラウンドで自分もズルで返すという戦略です。この戦略は、協力的な相手には協力し続けることで双方に利益をもたらし、非協力的な相手には報復することで一方的な不利益を防ぎます。ただし、コピーキャットにも弱点があり、わずかな「ミス(意図しないズル)」が起きると、コピーキャット同士の間で終わりのない報復の連鎖が発生してしまう可能性も指摘されています。
さらに、シミュレーションでミスの確率を調整すると、ミスの確率が高いほど、常にズルをする戦略が有利になることが示されます。これは、ミスコミュニケーションが多いと信頼関係が崩壊しやすいことを示唆しています。
サイトの制作者は、このゲームを通じて、信頼の進化に必要な3つの要素を示唆しています。
相互作用の繰り返し: 関係性が続くことで信頼が築かれる。
ノンゼロサムゲーム: 少なくとも双方に利益がある可能性のある状況であること。
ミスコミュニケーションの少なさ: わずかなミスは寛容につながるが、多すぎると不信感が広がる。
現代のメディア・テクノロジーはコミュニケーションを増やす一方で、ミスコミュニケーションも増やしている可能性があり、信頼を築く上で障壁となっているのではないか、という制作者の考えも述べられています。
文化や思想に対する規制の動き:ロシアでの事例
最後に、少し異なるテーマですが、社会的な規制に関するニュースをご紹介します。ロシアで、人気作品である「ハリー・ポッター」シリーズやテレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の配信が禁止される可能性があるという報道です。その理由として、「子どもを生まない思想(チャイルドフリー)」を排除するための法律が挙げられています。
ロシアでは、ソビエト連邦崩壊以来の出生率低下に加え、ウクライナ侵攻による戦死者や国外への労働者流出など、人口減少に悩まされており、人口減少対策が急務とされています。これを受けて、ロシア連邦議会は2024年11月に、「子どもを持たないプロパガンダ」を違法とする法律を全会一致で可決しました。この法律は2025年9月1日に発効し、子どもを持たない思想を公然と広めた者には罰金が科せられ、オンラインのコンテンツもブロックされる可能性があります。
ロシア当局が進める具体的な「禁止情報」の策定には、子どもを持つことを拒否することを奨励したり正当化したりするもの、子どもを持たないことのメリットを強調したり、妊娠・母性・父性に対する否定的なイメージを示したりするものが含まれるとのことです。
パルラメンツカヤ・ガゼータ紙がロシア当局への取材を基に挙げた禁止対象となる可能性のある作品には、「ハリー・ポッター」(マクゴナガル先生に子どもがいないため)、「ゲーム・オブ・スローンズ」(子どもを持つことを諦めた女性騎士が登場するため)、その他「ハウス・オブ・カード」や「セックス・アンド・ザ・シティ」の登場人物が子どもを持たないライフスタイルを選択していることなどが指摘されています。これらの作品は、コンテンツ全体の内容に関わらず、子どもを持たない思想に関連する情報が含まれている可能性があるため、削除またはブロックの対象となる可能性が示唆されています。
近年、科学技術や医療分野の進歩は目覚ましく、私たちの想像を超えるような研究成果や革新的な技術が次々と登場しています。今回は、提供された複数のソースから、特に注目の集まっている最新の研究開発トピックをいくつかピックアップしてご紹介します。
ロボットが心臓を移植する時代へ:サウジアラビアの偉業
サウジアラビアのキング・ファイサル専門病院・研究センター(KFSHRC)が、医療史に新たな一ページを刻みました。なんと、世界で初めてとなるフルロボットによる心臓移植手術を16歳の少年患者に成功させたのです。この患者は末期心不全を患っており、従来の開胸手術を避けたいと希望していたとのことです。
この画期的な手術では、最先端のロボット技術が活用され、従来の大きな切開を伴う開胸手術が不要になりました。代わりに、小さな切開部を通して手術が行われ、患者の身体への負担が大幅に軽減されました。このような低侵襲手術は、合併症のリスクを大幅に減らし、回復期間を短縮するといった多くの利点があります。特に、ロボットアームの精密な操作は、人間の手だけでは難しい繊細な動きを可能にし、治療成績の向上や入院期間の短縮につながる可能性があります。
この成功は、数週間にわたる綿密な計画と準備の賜物でした。手術チームは、実際の処置に先立ち、3日間で7回もの仮想シミュレーションを繰り返し行い、最高の精度とリスクの最小化を目指しました。手術自体はわずか2時間半で完了し、今のところ主要な合併症は見られていません。
この成果は、サウジアラビアが世界の医療イノベーションのリーダーとして台頭していることを示しており、将来の医療技術の進歩に対する重要な先例となります。ロボット手術は、心臓移植だけでなく、今後さまざまな外科分野で標準的な手法となる可能性を秘めています。
妊娠中のカルシウム摂取が子どもの心に影響?新たな可能性
愛媛大学大学院の三宅吉博教授を中心とした東京大学との共同研究チームが、興味深い研究成果を発表しました。妊娠中に十分なカルシウムを摂取することが、生まれた子どもが13歳になった時点でのうつ症状のリスクを低下させる可能性を示唆するもので、このような関連性を調べた研究は世界で初めてとのことです。
この研究では、九州と沖縄で追跡調査が行われた873組の母子のデータが活用されました。妊娠中の母親のカルシウム摂取量を4つのグループに分けて分析した結果、最も摂取量が少なかったグループの中央値が1日あたり347.4mgだったのに対し、最も多かったグループの中央値は674.7mgでした。そして、データ分析の結果、カルシウム摂取量が最も多いグループの子どもは、最も少ないグループと比較して、13歳時点でのうつ症状のリスクが約4割低いという結果が得られました。
これまで、カルシウム摂取自体がうつ病予防に効果があるという報告はありましたが、妊娠中の母親の摂取が子どもの将来のメンタルヘルスに影響するかを調べた研究はなかったため、この成果は非常に高い関心を集めています。研究チームは、妊娠中の食習慣によって子どものうつ症状を予防できる可能性を示した、としています。ただし、今回の結果を確定するためには、さらなる研究が必要であり、今後、他の栄養素や高校生を対象とした追跡調査も行う予定とのことです。この研究成果は、英国の学術誌「ジャーナルオブサイカトリックリサーチ」電子版で5月6日に公表されています。
がん細胞の「隠された食生活」を解明?
がん細胞のエネルギー源については、まだ不明な点が多いとされていますが、大阪公立大学の研究グループがその謎の一端を解明しました。彼らはがん細胞の新たなエネルギー代謝経路を発見し、がん細胞へのエネルギー供給を遮断することで、新しい治療法につながる可能性を示唆しています。
全ての生物は生命活動のためにATPというエネルギー物質を必要とし、ヒトでは主に糖や脂肪酸、酸素を使ってミトコンドリアでATPを合成します。しかし、がん細胞は酸素を使わずに糖からATPを作る「ワールブルグ効果」という代謝経路を利用できることが知られています。ただ、この方法は効率が悪いにも関わらずがん細胞が利用する理由や、他のエネルギー源(アミノ酸、乳酸など)との関係など、がん細胞のエネルギー代謝は非常に複雑で多様な経路が協調して機能していると考えられています。
大阪公立大学の研究グループは、ショウガ科の熱帯植物Kencurに含まれるEMCという物質に、がん細胞の増殖を特異的に抑制する効果があることを以前の研究で明らかにしていました。今回の研究では、このEMCがどのようにがん細胞のエネルギー供給に影響を与えるかを詳細に調べました。
その結果、EMCががん細胞の脂肪酸合成に関わる主要な酵素(Acly, Acc1, Fasn)の発現を抑制することが分かりました。これにより、がん細胞内の脂肪量とATP産生量が低下し、増殖が抑制されることが確認されました。一方、EMCによる解糖系の活性はむしろ上昇しており、このことは、がん細胞が主に脂肪酸の合成をエネルギー源として利用している可能性が強いことを示唆しています。さらに、外部から脂肪酸を補給すると、ATP産生量とがん細胞の増殖能が回復することも実証され、脂肪酸合成とエネルギー産生との間に明確な因果関係が存在することが明らかになりました。
この研究は、がん細胞が単一の代謝経路に依存するのではなく、糖代謝と脂質代謝という複数の経路を状況に応じて使い分ける多面的なエネルギー戦略を持っていることを示しています。この発見は、がんの新たな治療標的の探索や、代謝制御に基づいた治療法の開発に向けた重要な手がかりになると期待されています。この成果は、ネイチャー系のオンライン学術雑誌「scientific reports」に5月2日に公表されています。
首の電気刺激で集中力アップ?新しいデバイスの可能性
軍隊、医療、交通といった高い集中力を要求される職業では、睡眠不足や疲労が大きな問題となります。カフェイン摂取は一時的な対策ですが、効果が薄れるという課題があります。
そんな中、アメリカ・オハイオ州の防衛技術会社Infoscitexの研究チームが、睡眠不足でも集中力を向上させる新しい方法を見つけたと発表しました。これまでの研究で、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)という方法で脳に電流刺激を与えると、睡眠不足の人でも覚醒効果が得られることが分かっています。これは脳の青斑核という領域を刺激することで効果が得られると考えられていますが、tDCSは頭部に装置を巻く必要があり、個人が容易に行える方法ではありませんでした。
そこで研究チームは、より簡単に青斑核を刺激する方法を探索し、市販の機器を使って首を電気刺激する方法が、カフェインよりも高い効果を生み出す可能性があることを見出しました。この研究は、2021年6月10日付の科学誌『Communications Biology』に掲載されています。この技術が実用化されれば、集中力を必要とする様々な場面で、より手軽で効果的な眠気対策やパフォーマンス向上につながるかもしれません。
私たちの暮らす宇宙、そしてその中で営まれる様々な現象は、常に驚きと発見に満ちています。最近発表されたいくつかの興味深い科学ニュースから、宇宙の広大さ、微細な世界の不思議、そして意外にも大きな私たちの活動の影響まで、様々な側面が見えてきました。今日はこれらのニュースを紐解きながら、最新科学が示す世界をご紹介したいと思います。
冥王星の先に見つかった、太陽系に新たな「準惑星候補」登場!
まずは、私たちにとって最も身近な宇宙空間である太陽系に関するホットなニュースです。2025年5月21日、国際天文学連合(IAU)により、太陽系に新たな準惑星が登場した可能性があると公式に発表されました。その名は「2017 OF201」。
「準惑星」とは、2006年に国際天文学連合によって定められた、惑星と小惑星の中間に位置する天体の分類です。準惑星の定義はいくつかありますが、主な特徴として「太陽の周りを回っていること」「自らの重力で丸い(球形)になるだけの質量を持つこと」「他の天体を軌道近くから取り込んだりはじき飛ばしたりしていない」という点が挙げられます。かつて“第9惑星”だった冥王星が2006年に準惑星に再分類されたのは、この基準に該当したためです。その他にも、ケレス、エリス、マケマケ、ハウメアなどが準惑星に分類されています。
今回発見された2017 OF201は、直径が700キロメートルと十分に大きく、ほぼ球形であると見られているため、準惑星に該当する可能性が高いと考えられています。この天体は、冥王星のはるか彼方、太陽から最大1600天文単位(太陽と地球の距離の1600倍)もの距離にまで達するという、非常に遠い天体です。
2017 OF201は、太陽を一周するのに約2万5000年もの歳月がかかるという、異常な楕円軌道を持っています。最も太陽に近づくときでも45天文単位の距離があります。この発見は、チリとハワイの2つの望遠鏡で7年かけて収集された19枚の画像から導き出されました。遠すぎるため、この天体はその軌道のうちわずか1%の期間しか観測可能な距離に近づかないことも分かっています。
研究チームによると、この1つの天体の発見は、同じような軌道とサイズを持つ天体が100個以上存在する可能性を示唆しているそうです。また、この天体は一度、太陽系の最果て「オールトの雲」に放り出され、再び戻ってきた可能性があるとも推測されており、その軌道の異常さが複雑な重力の影響を受けた結果である可能性が示唆されています。
さらに、この発見は近年注目されている「第9惑星(プラネット・ナイン)」説に揺らぎをもたらす可能性も浮上しています。第9惑星説を支持する根拠の一つに、遠方天体の軌道の偏りがありますが、2017 OF201はそのパターンから逸脱しているため、第9惑星の存在に対する反証となる可能性が指摘されています。研究チームのシミュレーションでは、「第9惑星」が実在する場合、2017 OF201のような天体は太陽系から排除されてしまう結果となったとのことです。
新たな準惑星候補2017 OF201の発見は、私たちの太陽系がまだまだ未開拓であることを改めて浮き彫りにしました。冥王星の先にどんな世界が広がっているのか、今後の観測が楽しみです。
宇宙の深淵を探る:ブラックホールの最新情報
次に、宇宙の神秘的な存在、ブラックホールに関するニュースです。ブラックホールという名前は多くの方が知っていると思いますが、個別の特徴まではあまり知らないという人もいるかもしれません。
ブラックホールの存在に関する最初の予測は、1916年にドイツの天文学者カール・シュヴァルツシルトによる計算に基づいています。しかし、実際の宇宙での発見は困難でした。ブラックホール自体は目に見えず、物質を吸い込む際に発生するX線も大気によって遮られるため、宇宙空間での観測が必要だったからです。
1964年、宇宙でのX線観測の試みにより、はくちょう座の方向に強いX線源が発見され、「はくちょう座X-1」と名付けられました。その後の観測で、はくちょう座X-1には“目に見えない小さな天体”が存在することが判明し、1970年代半ばには**「ブラックホール以外にこのX線活動を説明することはできない」という見方が大勢に**なりました。この歴史的経緯から、はくちょう座X-1は「天文学史上初めて発見されたブラックホール」と呼ばれています。
はくちょう座X-1は、ブラックホール研究の第一人者であるスティーヴン・ホーキングとキップ・ソーンが1974年に賭けの対象としたことでも有名です。ホーキングは「はくちょう座X-1はブラックホールではない」方に賭けましたが、これはもしブラックホールでなかった場合に研究が無駄になることへの「保険」だったそうです。賭けの決着は1990年に処理され、ホーキングの負けとなりました。
他にも、人類が初めてその姿を「撮影」することに成功したM87銀河の中心にあるブラックホールや、最近では太陽327億個分もの重さを持つ超巨大ブラックホールの発見、超巨大ブラックホールが星の誕生を妨げている可能性、M87銀河中心部からの強力なガンマ線フレア検出、そしてNASAによるブラックホール落下時の再現動画公開など、ブラックホールの研究は日々進んでいます。
宇宙の終わりは予想より早い?最新研究が示す「熱的死」への道
宇宙の果てしない広がりやブラックホールの謎に思いを馳せると、この宇宙がどのように始まり、そしてどのように終わるのか、という問いが浮かんできます。宇宙は約138億年前に誕生したとされていますが、その終焉は「熱的死」と呼ばれる状態、つまり星々が燃え尽き、あらゆる物質とエネルギーが散逸し、冷たく暗い虚空だけが残る時に訪れると考えられています。
以前は、この熱的死が訪れるのは「10の1100乗年後」と予測されていました。これは1の後にゼロが1100個も並ぶ、途方もなく長い時間です。しかし、ブラックホールの専門家、量子物理学者、数学者からなる最新の研究チームは、この予測を大幅に短縮しました。彼らの新しい予測では、宇宙の終焉は「10の78乗年後」に来る可能性があるというのです。これも途方もない数字ですが、以前の予測と比べると格段に早まっています。
宇宙の終焉が早まった主な理由として、ホーキング博士が提唱したブラックホールも蒸発するという理論「ホーキング放射」を、恒星の残骸である白色矮星など他の天体にも応用して考慮に入れたことが挙げられます。研究によると、高密度の白色矮星は約10の78乗年で蒸発する可能性があるとのことです。中性子星や恒星ブラックホールは蒸発するまでに10の67乗年かかると予測されています。さらに興味深いことに、月や人間でさえ、10の90乗年後には蒸発するという予測が導き出されています。
研究チームの一員であるラドバウド大学のハイノ・ファルケ氏は、「宇宙の究極の終焉は、予想よりもずっと早くやってくる。だが幸いなことに、それでも非常に長い時間がかかる」と述べています。宇宙は暗黒エネルギーという謎の力によって加速的に膨張しており、はるか遠い未来には空っぽになり、物質は崩壊し、ブラックホールは蒸発し、最終的には創造物の廃熱を拡散させるわずかな光の粒子だけが残るだろう、と『The End of Everything』の著者ケイティ・マック博士は解説しています。
量子世界の新星?「時間結晶」がエネルギー貯蔵の未来を変える
宇宙の大きな話から一転、物質の微細な世界にも驚くべき発見があります。まるでSFに登場する物質のような「時間結晶」が、将来のエネルギー貯蔵技術に新たな道を開く可能性があるという研究が発表されました。
私たちがよく知る結晶は、原子が空間的に規則正しく並んだ構造を持っています(ダイヤモンドや水晶など)。一方、時間結晶は空間ではなく、時間の中で系の状態が繰り返される物質の相です。つまり、ある物質の状態が一定の時間間隔で周期的に変化し続け、決して静止した安定状態(熱平衡)に落ち着かないという、特異な性質を持っています。外部からエネルギーを与え続ける限り、その状態は持続的に振動し続けるのです。
時間結晶は2012年にノーベル賞物理学者フランク・ウィルチェック氏によって概念が提唱され、近年実験的にも実現されつつある新しい物質相です。その独特な振る舞いから、量子コンピュータの安定化や高精度センサーへの応用など、様々な分野で注目されています。
特に近年、研究者の関心を集めているのが、この時間結晶を「量子電池」に応用するアイデアです。量子電池とは、量子力学の原理を利用してエネルギーを蓄えたり取り出したりする次世代電池の概念で、従来の電池よりも高速かつ効率的に充放電できる可能性を秘めています。東京大学が「因果を打ち破って充電」する量子電池を発表した例もあります。
英コベントリー大学で行われた研究では、時間結晶を利用した量子電池のコンセプトが提案され、時間結晶が持つ“時間方向の量子状態のリズム”を活かすことで、高効率にエネルギーを蓄えられる可能性が理論的に示されました。これはある意味、空間だけでなく時間の中にエネルギーを蓄えるようなユニークな仕組みです。
研究チームは、2つの時間結晶を結合させたシステムに着目し、その熱力学的挙動を詳しく調べました。当初は量子エンジン(量子熱機関)を構成することを想定していましたが、解析の結果、このモデルはむしろ量子電池の動作を記述するのに適していることが判明したとのことです。コベントリー大学のフェデリコ・カロロ准教授は、時間結晶の実用化には、それを維持するために必要なエネルギーや放出される熱量など、熱力学的な理解が重要だと述べています。この研究は、カロロ准教授が率いる国際共同プロジェクトとして進められています。
宇宙の闇の正体?「暗黒物質」に関する新理論が登場
宇宙の約85%を占めるとされながら、いまだその正体が掴めていない**暗黒物質(ダークマター)**についても、新たな理論が発表されました。この新理論では、**暗黒物質はビッグバン直後の宇宙に存在した、光速に近いスピードで飛び交う粒子が「凍りついた残骸」**だとしています。
理論モデルの舞台は、ビッグバン直後の超高温・超高密度の宇宙です。このカオスのような初期宇宙では、光の粒である光子と同様に、質量を持たないか極めて軽い粒子たちが、熱く速い状態で飛び交っていたと考えられています。研究チーム(リャン氏とコールドウェル氏)は、暗黒物質の元となる粒子もそうした状態にあったと仮定しました。
やがて宇宙が膨張して温度が下がると、これらの粒子たちの間に特定の自己相互作用が働き始めます。この相互作用によって粒子たちはペアを組み、まるで水蒸気が水滴に凝縮するようにエネルギーを失い、大きな質量を獲得したというのです。これは、質量がゼロの状態から有る状態へ粒子が相転移した転換点であり、この瞬間に暗黒物質は冷たく重い性質を手に入れた可能性があると説明されています。粒子がペアを作った理由としては、スピンが互いに反対向きだったことなどが挙げられています。
その結果、運動しなくなり、重く非相対論的になった粒子の凝縮体が残されました。これが現在の宇宙で銀河に質量を与えている暗黒物質そのものだ、というのがこの理論の主張です。この相転移は、宇宙論におけるフリーズアウト(凍結)に似た役割を果たし、最終的な暗黒物質の量が決定されたと考えられています。
興味深いのは、この質量獲得メカニズムが超伝導現象と深い類似性を持つ点です。超伝導では、特定の金属を極低温に冷やすと、普段は反発し合う電子が「クーパー対」と呼ばれるペアを形成し、エネルギー的に安定した凝縮状態に入ることで電気抵抗がゼロになります。コールドウェル教授は、超伝導におけるクーパー対の存在が、今回のモデルのような急激なエネルギー低下を引き起こすメカニズムが実際に存在することの証明になっていると語っています。実際、このモデルは超伝導理論にならって質量の起源を説明するために考案された素粒子論の枠組み(南部陽一郎・ジョナ・ラシニオ、NJLモデル)に基づいています。既知の物理法則に基づくシンプルなモデルで暗黒物質の形成過程を描き出した点が、この理論の大きな魅力と言えるでしょう。
この新理論で生成された暗黒物質は、従来のシナリオよりわずかに速いペースで減衰・希薄化するという特徴を持つため、これが現在の宇宙で測定される暗黒物質の分布やゆらぎに微妙な違いとして現れる可能性があり、今後の観測によって検証されることが期待されます。
人間活動も地球に影響を与えている?意外な事実
最後に、私たち自身の活動が、宇宙のスケールである地球に影響を与えているという興味深いニュースです。NASAの2005年の報告によると、中国湖北省にある世界最大級のダム「三峡ダム」が、地球の自転をほんのわずかだけ遅らせている可能性があるそうです。
三峡ダムは満水時に約40立方kmもの水を蓄えることができます。これはオリンピックサイズのプール1,600万倍、琵琶湖およそ1450杯分に相当する膨大な量です。この大量の水の移動によって、地球の形は赤道がわずかに膨らみ、極地域が平ら気味に変形し、結果として1日の長さが0.06マイクロ秒(約1666万分の1秒)長くなる可能性があるとのことです。
この現象は、フィギュアスケーターが腕を広げると回転速度が遅くなるのと同じ原理で説明できます。三峡ダムに蓄えられた水が赤道付近に移動することで、地球全体の質量分布が変化し、回転(自転)に影響を与えるのです。NASAゴダード宇宙飛行センターのベンジャミン・フォン・チャオ博士は、車の運転のような些細な行為でさえ、地球に微妙な影響を与える可能性があると指摘しており、三峡ダムは人間の活動が意図せずに地球の自然な力学を変化させてしまう好例と言えます。
ちなみに、0.06マイクロ秒というのは極めて短い時間で、その間に地球の赤道は約28マイクロメートル(人間の髪の毛の半分以下)しか回転せず、光でも18メートル進む程度だそうです。しかし、人工物ひとつで地球の自転速度に影響を与えるというのはすごい話です。
さらに、三峡ダムのような巨大建造物を「つくる」以外にも、人間は地球の自転に影響を与えています。人間活動に起因する温室効果ガス排出による南極大陸やグリーンランドの氷床の急速な融解が、地球の自転に影響を与え、2000年以降に100年あたり約1.33ミリ秒という速いペースで日が長くなっているとNASAが報告しています。これも、氷が溶けて重い水が赤道付近へ移動することが原因です。つまり、あるものを「なくす」ことでも地球の自転に影響を与えられるのです。
三峡ダムは中国全体の電力需要のわずか3%を賄っているにすぎませんが、その存在は単なる発電設備以上の意味を持っています。国家の技術力を象徴すると同時に、私たちの文明が惑星そのものに影響を及ぼすという現実を象徴しているのです。人間がつくる構造物が自然のリズムにさえ影響を与えるようになったいま、「人間はちっぽけな存在ではない」という確信を改めて持つことができます。
2025年も様々な分野で科学技術の進歩が続いています。今回は、私たちの常識を覆したり、未来の可能性を感じさせたりする、特に興味深い3つのニュースをソースからご紹介します。
1. 引っ張ると「縮む」常識破りの構造「カウンタースナッピング」が開発
物理学の常識として、「引っ張れば伸びる」というのは誰もが疑わない現象です。輪ゴムやスプリングのように、力を加えて引っ張れば長さが長くなるのが普通です。
しかし、オランダのAMOLF研究所のチームは、この常識を覆す 「引っ張ると縮む」構造の開発に成功しました。彼らは、「カウンタースナッピング」と呼ばれる理論現象を、世界で初めて 物理的に実現可能な弾性構造として構築した のです。この成果は、2025年4月17日付の『PNAS』誌に掲載されています。
この構造は、「スナッピング」という現象の一種を利用しています。スナッピングとは、ある構造に力を加えたとき、ある閾値を超えると 一気に別の形へと切り替わる現象 です。ペンのノック機構のような動きもスナッピングの一種です。これらの動きでは、力が加わりながらある瞬間に急激な形の変化が生じます。通常のスナッピングは、 構造の変形が外から加えた力の方向と同じ向きに起こる のが基本的な特徴です。押せば押し込まれ、引けば伸びるといったように、力に沿って変形が進み、その途中でスナップ的な動きが発生します。
しかし、「カウンタースナッピング」は、加えた力と逆方向のスナッピングを生じさせることを可能にした構造です。引っ張る方向に力を加え続けると、ある一定のラインでパチンと 「縮む」 のです。
これまでこの現象は理論上のもので、現実の構造として再現することは難しいとされていました。なぜなら、通常の材料の性質を超えて、 力の流れそのものを設計する必要がある からです。研究チームはこの課題に対し、構造を作る素材自体の特性を変えるのではなく、 複数の非線形バネ(弾性要素)を組み合わせる という非常にユニークなアプローチを取りました。その構造は、3種類の異なるバネを計5つ使用したシンプルなものです。重要なのは、これらのバネの 力–変位の性質がすべて異なる点 です。これらを組み合わせることで、構造に一定の引張力が加わるとバランスが崩れ、 構造が一気に「カクン」と折れたように形を変え、結果として長さが短くなる という動きが発生するのです。
2. 暗闇でも目が見える“超感覚”コンタクトレンズが登場
私たちの目では通常、赤外線を捉えることはできません。波長が長すぎるため、網膜が反応できないからです。そのため、赤外線で満たされた空間に入っても、それは目に見えず、ただ暗いだけです。
これまでも、この「見えない光」を「見えるようにする」技術は存在しました。第二次世界大戦中から使われている赤外線ナイトビジョンゴーグルです。これは暗闇でも赤外線を増幅し、映像化することで視界を確保できます。しかし、従来の赤外線ゴーグルにはいくつかの大きな課題がありました。まず、 中に電源と画像増幅管が入っているため、重くてかさばりやすく、携帯性に劣り、長時間の使用には不向き です。また、暗視の際には周囲の状況が不自然な緑色に置き換わってしまうなど、可視光と赤外線の両方を見ることができませんでした。
こうした背景から、より軽く、より高機能な赤外線視覚の実現を目指す研究が進められていました。そしてこのほど、中国科学技術大学(USTC)により、ついにその成果がもたらされました。 暗闇の中で光を感じ、肉眼では見えない赤外線の世界を知覚できる 、 「赤外線を『見える化』する革新的なコンタクトレンズ」が開発されたのです。
このコンタクトレンズは、従来の赤外線ゴーグルとは違い、 電源も装置も必要ありません。ただ装着するだけで、私たちの視覚は赤外線領域にまで広がります。しかも驚くべきことに、レンズ装着者は 目を閉じたときの方が赤外線の感知レベルが高まっていた とのことです。この研究の詳細は2025年5月22日付で科学雑誌『Cell』に掲載されています。
3. 魔法陣のような見た目のプログラミング言語「Mystical」
JavaやPythonのような一般的なプログラミング言語は、英語などの自然言語を基にしたキーワードを使っています。これに対し、完全にオリジナルのキーワードだけで作られた言語もあります。
今回ご紹介するのは、「Mystical」というオリジナルのプログラミング言語です。この言語の最大の特徴は、文字ではなく 魔法陣のような図形を命令文として設定している 点です。これにより、ソースコードを 魔道書のように描くことができる とされています。
Mysticalの構造は、内側と外側に境界線を持つ 「リング」に基づいています。一番外側のリングは時計の3時の位置から始まり、反時計回りに流れて記述されている図形に応じてタスクを実行します。また、リングとリングが線で接続されている場合、別のリングは「補助リング」と呼ばれます。左上の三角の記号が付いているリングから開始し、反時計回りにタスクを実行して、線で補助リングに移って同じように反時計回りでタスクを実行していくという流れになります。ソース記事では、ユークリッドのGCDアルゴリズム(ユークリッドの互除法)を例に、擬似コードとMysticalで記載されたソースコードの比較が示されており、Mysticalでは円と記号を組み合わせた図形をつなげて記述することがわかります。
このユニークな見た目から、Hacker Newsで話題になった際には、アニメ「電脳コイル」で子どもたちが地面にチョークで描いて電脳世界にアクセスする 「暗号式」のようだ という感想や、宇宙人と対話するために円を基本とした記号を用いる映画「メッセージ」の言語 「Heptapod A/B」を想起した というユーザーの声が寄せられています。
MysticalはGitHubからダウンロードして試すことができます。