2025-01-17号

今週の気になったニュース

半導体市場の未来と加速するシンギュラリティ

近年、半導体業界は目覚ましい発展を遂げています。特に、微細化技術の進歩により、トランジスタのサイズが縮小し、デバイスの性能が飛躍的に向上しています。ASML Investor Dayで発表されたスライドは、この傾向が今後も継続し、15年以上にわたって半導体の微細化が進むことを示唆しています。

「新ムーアの法則」と半導体市場の成長

ムーアの法則は、半導体の集積回路上のトランジスタ数が18ヶ月ごとに倍増するという経験則です。近年、この法則のペースは鈍化していますが、微細化技術の進歩により、新たな「新ムーアの法則」が誕生しつつあります。ASMLの予測によると、1パッケージ当たりの計算速度が2年で16倍になるという驚異的なペースで成長するとのことです。

このような半導体性能の飛躍的な向上は、世界半導体市場の成長を牽引します。筆者は、過去10年間の世界半導体市場が概ね2倍の割合で成長していることを指摘しました。この傾向が今後も継続すると仮定すると、2052年には世界半導体市場が4兆8000億米ドルに達するとの予測が得られます。

加速するシンギュラリティ

レイ・カーツワイル氏は、2029年までにシンギュラリティが到来すると予測しています。これは、人工知能が人間の知能を超え、技術進歩が指数関数的に加速する時点です。この予測は、半導体業界の急速な発展と相まって、ますます現実味を帯びてきています。

シンギュラリティが既に到来しているのではないかという疑問も浮上しています。その兆候として、以下の2点が挙げられます。

  1. 計算速度の飛躍的向上: 前述の通り、1パッケージ当たりの計算速度が2年で16倍という驚異的なペースで成長しています。

  2. 生成AIの進化: ChatGPTをはじめとする生成AIの高度化と普及は、人工知能の能力が急速に向上していることを示しています。

半導体業界の課題と展望

半導体業界は、今後もさらなる成長が期待されますが、いくつかの課題も存在します。

  • 微細化の限界: トランジスタのサイズが物理的な限界に近づいているため、微細化による性能向上は徐々に鈍化する可能性があります。

  • 製造コストの上昇: 先端半導体の製造には巨額の投資が必要であり、製造コストの上昇が懸念されます。

  • サプライチェーンリスク: 地政学的リスクや自然災害などによるサプライチェーンの混乱が、半導体供給に影響を及ぼす可能性があります。

これらの課題を克服するためには、新たな技術の開発や国際協力が不可欠です。例えば、量子コンピューティングやニューロモルフィックコンピューティングなどの次世代コンピューティング技術の研究開発が期待されます。また、国際的な半導体サプライチェーンの構築や、半導体人材の育成も重要な課題です。

結論

半導体業界は、今後も急速な発展を遂げ、シンギュラリティの到来を加速させるでしょう。この技術革新は、私たちの生活や社会を大きく変革する可能性を秘めています。半導体業界の動向に注目し、その影響を理解することが重要です。

人工光合成、ついに量子効率96%を達成!水分解反応の電荷再結合問題を克服

SrTiO3:Al光触媒と異方性電荷輸送の組み合わせが鍵

太陽光エネルギーを利用した水分解による水素製造は、クリーンエネルギー社会実現の鍵を握る技術として注目されています。しかし、従来の光触媒を用いた水分解反応では、量子効率が10%程度にとどまり 1、実用化への大きな障壁となっていました。

この度、東京大学を中心とした研究グループは、アルミニウムドープチタン酸ストロンチウム(SrTiO3:Al)光触媒と、助触媒Rh/Cr2O3およびCoOOHを組み合わせることで、350~360 nmの波長において外部量子効率96%を達成したと報告しました 1。これは、内部量子効率ほぼ100%に相当し、水分解反応における電荷再結合ロスをほぼ完全に抑制することに成功したことを意味します。

ポイント

  • SrTiO3:Al光触媒の異方性電荷輸送を利用し、水素発生と酸素発生の反応サイトを空間的に分離 1

  • Rh/Cr2O3助触媒が水素発生を促進し、CoOOH助触媒が酸素発生を促進 1

  • 選択的な光析出法により、助触媒をSrTiO3:Al光触媒の特定の結晶面上にそれぞれ固定化 1

背景

光触媒に光が照射されると、電子と正孔が生成されます。これらの電荷キャリアは、水分解反応の触媒となりますが、再結合してしまうとエネルギーが失われ、量子効率が低下します。2 従来の光触媒では、この電荷再結合が大きな課題となっていました。

本研究の成果

本研究では、SrTiO3:Al光触媒の持つ異方性電荷輸送に着目し、水素発生と酸素発生の反応サイトを空間的に分離することで、電荷再結合を抑制することに成功しました。1 具体的には、光触媒粒子のある結晶面にはRh/Cr2O3助触媒を、別の結晶面にはCoOOH助触媒を選択的に光析出することで、電子と正孔を効率的に分離し、それぞれの反応サイトへ移動させることを可能にしました。1 Rh/Cr2O3はRhをコア、Cr2O3をシェルとするコアシェル構造を持つ。3 Rhは優れた水素発生触媒であり、Cr2O3は酸素のRh表面への侵入を抑制することで、逆反応を抑制する役割を担います。4 さらに、Cr2O3シェルは水素発生を促進する効果も持つことが示唆されています。5

今後の展望

本研究成果は、人工光合成の実用化に向けた大きなブレークスルーと言えます。6 今後、可視光領域での量子効率向上や耐久性向上などの課題を克服することで、太陽光エネルギーを利用した水素製造の効率化、ひいては低コスト化が期待されます。7

参考文献

1 K. Domen et al., Nature 621, 59–64 (2023).

物質に光を照射することで、その物質の性質を劇的に変化させる現象、光誘起相転移は、近年、凝縮系物理学において最もホットなトピックの一つと言えるでしょう。光誘起相転移は、超伝導 1、強誘電性 2、磁性 4、電荷密度波 7 など、様々な相転移を引き起こすことが示されており、基礎物理学的な観点からだけでなく、将来的な光デバイス応用という観点からも、世界中で精力的に研究が進められています。

特に近年注目されているのが、van der Waals物質における光誘起相転移です。van der Waals物質とは、層状構造を持つ物質群のことで、グラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドなどがその代表例です。van der Waals物質は、層間の相互作用が弱いため、容易に薄膜化することができ、フレキシブルデバイスや光デバイスへの応用が期待されています。また、van der Waals物質は、層状構造に由来する特異な電子状態やフォノン構造を持つため、バルク物質とは異なる光誘起相転移現象が発現する可能性も秘めています。

しかしながら、多くの場合、光誘起された状態は、光照射を停止すると超高速に元の状態へと戻ってしまいます。これは、光誘起相転移を利用したデバイス応用を考える上で、大きな障害となっていました。

今回紹介する論文は、van der Waals反強磁性体であるFePS3に、テラヘルツ光パルスを照射することで、ミリ秒オーダーという非常に長い寿命を持つ準安定磁化状態を誘起することに成功したという報告です 1

FePS3は、van der Waals力によって層状に結合した結晶構造を持つ物質で、Feイオンが蜂の巣格子状に配列しています 6。FePS3は、約120 KのNéel温度 (TN) を持つ反強磁性体であり、層内で隣り合うFeイオンのスピンが反平行に整列した磁気構造をとります 6

本研究では、高強度テラヘルツパルス光をFePS3単結晶に照射し、その後の磁化ダイナミクスを磁気光学カー効果測定によって観測しました。その結果、テラヘルツパルス光の照射により、FePS3に有限の磁化を持つ準安定状態が誘起されることが明らかになりました。驚くべきことに、この準安定状態の寿命は2.5ミリ秒以上と非常に長く、従来の光誘起磁性に関する研究で報告されている値をはるかに上回っています。

さらに、この準安定状態の寿命は温度に依存し、Néel温度に近づくにつれて長くなることが観測されました。これは、反強磁性転移点近傍における臨界揺らぎが、準安定状態の寿命に重要な役割を果たしていることを示唆しています。

DEIの潮流に逆らう米トヨタ:企業の真の価値とは

近年、米国企業を中心に、DEI(Diversity, Equity, and Inclusion)の推進が盛んに行われてきた。しかし、2023年以降、この流れに逆らう動きが顕著になりつつある。本稿では、このDEIの潮流の変化について、特に米トヨタの動向に焦点を当てて考察する。

DEIとは何か

DEIとは、多様性、公平性、包摂性の略称である。企業においては、従業員の多様性を尊重し、公平な機会を提供し、すべての従業員が組織に包摂されることを目指す取り組みである。具体的には、性別、人種、民族、宗教、性的指向、年齢、障害など、さまざまな属性を持つ人々が、平等な機会を得て、能力を発揮できる環境を整えることを指す。

DEIの推進と弊害

DEIの推進は、企業の社会的責任を果たすための一つの手段として注目されてきた。多様な人材の活用により、イノベーションを促進し、企業の競争力を高めることが期待された。しかし、過度なDEIの推進は、かえって企業の生産性を低下させ、社会の分断を助長する恐れがある。

例えば、DEIの指標に基づいた人事評価や昇進の決定は、個人の能力や業績よりも、所属するグループや属性を優先させることになりかねない。また、DEIの名のもとに行われる過剰なトレーニングや意識付け活動は、従業員の負担を増やし、職場におけるストレスや不満を招く可能性がある。

米トヨタのDEI方針転換

米トヨタは、2023年10月にDEI活動の一部を縮小し、LGBTイベントへのスポンサーシップを停止するなど、DEIへの取り組みを縮小する方針を発表した。この決定は、米国の企業界で広がりつつあるDEIへの懐疑的な流れを反映している。

米トヨタのこの方針転換は、企業の真の価値とは何かという根本的な問いを投げかけている。DEIの推進が企業の競争力を高めるという主張は、必ずしも実証されていない。むしろ、過度なDEIの追求は、企業の生産性を低下させ、顧客満足度を低下させる恐れがある。

企業の真の価値とは何か

企業の真の価値は、顧客満足度と株主価値の最大化である。顧客満足度を高めるためには、優れた商品やサービスを提供し、顧客のニーズに応えることが重要である。株主価値を最大化するためには、効率的な経営を行い、利益を上げることが必要である。

DEIの推進は、これらの目標を達成するための手段の一つに過ぎない。過度なDEIの追求は、かえって企業の生産性を低下させ、顧客満足度を低下させる恐れがある。企業は、DEIの推進とビジネスの両立を図る必要がある。

結論

DEIの推進は、企業の社会的責任を果たすための一つの手段であるが、過度な追求はかえって企業の生産性を低下させ、社会の分断を助長する恐れがある。企業は、DEIの推進とビジネスの両立を図る必要がある。米トヨタのDEI方針転換は、企業の真の価値とは何かという根本的な問いを投げかけている。企業は、顧客満足度と株主価値の最大化を追求し、過度なDEIの追求を避けるべきである。

レドックスフロー蓄電:日本のエネルギー転換を支える新技術

背景:エネルギー転換と蓄電の課題

21世紀に入り、地球温暖化問題への国際的な取り組みが加速している。その一環として、化石燃料に依存したエネルギーシステムから再生可能エネルギー(Renewable Energy, RE)への転換が世界的に進められている。太陽光発電や風力発電といったREは、環境負荷が低く、資源量も豊富であるため、持続可能なエネルギー源として期待されている。

しかし、REの普及には大きな課題がある。それは、発電量が天候や風況に大きく依存することである。太陽が照らない夜間や風が弱い日には発電量が低下するため、安定的な電力供給を確保するためには、余剰電力を蓄えておく必要がある。この課題を解決するために、さまざまな蓄電技術が開発・実証されている。

レドックスフロー蓄電の原理と特徴

レドックスフロー蓄電(Redox Flow Battery, RFB)は、有望な蓄電技術の一つである。RFBは、正極液と負極液という2種類の電解液を電解槽に流し込み、電極表面で酸化還元反応を起こすことで電気を貯蔵する。充電時には、外部から電気を供給して電解液中のイオンを酸化還元反応させ、化学エネルギーとして蓄える。放電時には、逆の反応が起こり、蓄えられた化学エネルギーを電気エネルギーに変換する。

RFBの大きな特徴は、エネルギー容量と出力容量を独立して設計できることである。エネルギー容量は電解液の量によって、出力容量は電解槽の大きさによって決定される。そのため、さまざまな用途に合わせて柔軟にシステムを設計することができる。また、RFBはサイクル寿命が長く、安全性が高いことも特徴である。

北海道におけるレドックスフロー蓄電の導入

北海道は、風力発電のポテンシャルが高く、REの導入が進んでいる地域である。しかし、前述のように、REの変動性を吸収するためには、大規模な蓄電システムが必要となる。北海道電力ネットワーク(HEPCO)は、この課題を解決するために、レドックスフロー蓄電システムを導入した。

2022年4月、北海道安平町に世界最大級のレドックスフロー蓄電施設が稼働を開始した。この施設は、住友電気工業が開発したもので、大容量の電力を長期間にわたって安定的に貯蔵することができる。HEPCOは、この施設を活用して、REの導入拡大と電力系統の安定化を図っている。

レドックスフロー蓄電の今後の展望

レドックスフロー蓄電は、その優れた特性から、世界中で注目を集めている。特に、再生可能エネルギーの普及が進む地域では、大規模な蓄電システムとして期待されている。しかし、コスト面や技術的な課題も残っており、さらなる研究開発が必要である。

日本政府は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギーの導入拡大を推進している。レドックスフロー蓄電は、この目標達成に貢献する重要な技術である。今後も、技術革新とコスト低減が進み、より広く普及することが期待される。

参考文献

  • IEA, Renewable Energy Outlook 2022

  • Wood Mackenzie, Energy Transition Research Service

  • 住友電気工業株式会社

  • 北海道電力ネットワーク株式会社